民事信託について

家族信託の利用を考えてみましょう。

日本が超高齢化サイクルに入り、自分がどこまで長生きするのか、ボケてきたとき、誰がどう面倒をみてくれるのか、自分が死んだら自分の家族や事業は大丈夫だろうか、などなど心配の種は増えるばかりの世の中になってきました。いっそ考える時間もなくぽっくりあの世へ連れていってくれ~と個人的には思いますが、なまじ長生きなだけに、悩む時間もたっぷりあるというのが良し悪しですね。

さて、自分の死後の財産の処遇に対しては「遺言」が、生前の判断能力の低下に対しては「成年後見制度」「任意後見」制度が二大巨頭でしたが、昨今、自分の意思をより柔軟に、的確に表現する方法として、個人間で取り交わす民事信託契約が注目されています。

信託契約とは?

信託契約というのは、ざっくり言うと、委託者(財産をまかせる側)と、受託者(財産を任される側)との間で、その財産の管理方法を決めておいて、例えば委託者が死亡したり、判断能力が低下したときに、あらかじめ決めた管理方法に基づいて、財産を処分したり、分配したりするというものです。
具体例を言うと、次のようなイメージでしょうか。

  1. 高齢の父は資産家で、将来、父が亡くなったときの相続税は相当な額になるだろうと予想されています。これに関し、父は以前からさまざまな相続対策を講じ続けていますが、いつか自分の判断能力が低下してきて、この相続対策が中途半端に終わってしまうことを恐れています。
    そこで、長男との間で、万が一、父の判断能力が衰えたときに、相続対策のため、財産の管理や処分を継続することを委ねる契約を交わします…。

  2. 父は、先祖から守ってきた家や田畑やご先祖様を、今後も末永く守り続けて欲しいと思っています。
    ですから、もし父が死んだら父の長男にこれらを相続させたいし、そのさらに先、父の長男が死んだら、長男の長男(孫)に財産を継いでもらいたいと思っているので、代々の相続において、それを実行してもらうような契約を交わします…。

信託契約は慎重に!

私個人としては、「これは便利!民事信託ばんばん使いましょう!」とおすすめはしません。なぜなら、民事信託は、契約締結者同士(このページでは「家族」や「身近な親族」を想定しています)の信頼関係に基づいて、契約が有効な間は、ずっとその契約を守っていかなければならないという、極めてパーソナルでストイックなものだからです。
特に、財産を託された人については、契約後、自分がそのミッションを遂行できるか、その覚悟が必要です。例えば前記の2のケースで言うと、長男が財産を相続するのはアリとしても、まだまだ将来がはっきりしない長男の子にまで、その任務(家と田畑と仏様を守ること)を託すことになるからです。

ですから、特に家族や親族同士で交わす信託(ここでは「家族信託」と言います。)契約は、委託者(頼む側)及び受託者(頼まれる側)がよく話し合って、双方がメリットを感じられるケースで使う必要があるんじゃないかなと思います。

家族信託を使う場合のメリットとデメリット

メリット

1 遺言よりも柔軟な財産の引渡し方法を設定できる。

例えば、前記2のように、「自分が死んだら長男に相続させ、長男が死んだら長男の孫に相続させる。」などという設定ができたり、「遺産を一度に渡すのではなく、毎月定額にして渡してほしい。」など、引渡し方法や財産の使途について、細かな決まりごとを作ることができます。

2 成年後見制度では不可能な財産の処分を可能にする。

成年後見制度というのは、「判断能力が低下した人について、後見人などを選任し、その人の財産を管理する」という制度ですが、この制度の特徴は、「収支を把握し、生活に必要な費用を除いては、財産を保全する。」というところにあります。

つまり、積極的な財産の処分(例えば、将来の相続対策のために親族間への贈与をしたり、不動産を購入したり、有価証券を売買したりする等)は認められていません。しかし、信託契約を締結することで、判断能力低下後の相続対策を可能にすることができます。

デメリット

1 受託者になる人には覚悟(?)が必要。

前記「信託契約は慎重に!」でも述べましたとおり、信託契約は委託者と受託者の契約に基づいて、受託者がその契約に定められた内容(事務)を遂行することによって実現されます。そして、その事務内容は、一回のみで終わることもあれば、ずっと続けていかなければならないこともあるでしょう。そういった先々のことまでよく理解されたうえで、信託契約は締結する必要があります。

契約締結後は、民法その他の法律で定められた義務が課せられることになり、義務違反は損害賠償請求等の対象にならないとも限りません。委託者と受益者はもちろんですが、受託者になる方にとって、何らかのメリット性(財産が末代守られるとか、相続税の負担が軽減されるとか、事業承継がスムーズにいくとか)を感じることが、受託事務を遂行する原動力になりえると考えますので、契約内容はよくよく吟味して決めていくことが必要です。

2 委託者の判断能力のあるうちに契約を締結しなければならない。

信託契約は、「契約」なだけに、双方が合意して締結する必要があります。
例えば、ある一家の長男が、父親の判断能力がかなり低下してきたことをかんがみ、将来の相続税負担を軽減するために、親族らに財産を生前贈与しておこうと思い立ったとします。しかし、贈与自体も契約ですから、父親(あげる人)と受贈者(もらう人)の合意が必要なのですが、お父様はそのことを理解できない状態にあります。「このままではいけない…」そう考えた長男は、信託契約というスキームに行き当たります。
父親と自分が信託契約を結んで、自分が父親の代理で贈与手続きをすればいいわけです!

どうでしょう?
上記の場合、残念ながら信託契約は使えません。冒頭に述べたとおり、信託契約も「契約」です。双方合意がないと有効ではないのです。しかも、贈与契約と違い、信託契約は財産の流れや登場人物の役割が複雑です。それらのスキームをよく理解して締結しておかないと、後々、相続等で他の親族から信託契約の有効性を問われることにもなりかねません。
判断能力が低下してしまった場合、相続対策、事業承継対策、遺産活用対策などの方策はかなり狭くなります。「ない」と言っても過言ではないかもしれません。信託契約は必ず、お元気なうちに準備をする必要があるのです。

それでも、「家族信託」は検討に値する手段です。

デメリットはありますが、それでも、家族信託というスキームは、遺言や成年後見制度では実現しえないご本人の希望を叶え、かつ、受益者や相続人などにとっても実益のあるシステムを作ることができます。
しかし、作った信託契約の内容が、委託者・受託者・受益者がみな「三方良し」となっていなければなりません。

そのためには、お元気なうちに準備を始めること、作成段階でも常にあらゆる面で検討を加えておくことが絶対に大事です。

 

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